公正証書遺言がいいに決まっている。他の方式を考える必要はない

af0100000124_R安易な解説に惑わされないで


  遺言のうち、多く用いられているのは、自筆証書遺言、公正証書遺言の2種類です。そして、これらについて、多くの手引書では次のようにメリット・デメリットが解説されています。

「公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場に保存されるため、偽造、 変造、紛失、 滅失のおそれがなく、遺言書の作成に公証人が関与するため、遺言者の意思を正確に実現しやすく、方式不備によって遺言が無効とされる可能性が低いことが特徴です。また、自筆証書遺言のように遺言書の開封や検認手続は不要です。
 一方、自筆証書遺言は、方式不備で遺言が無効となったり、遺言内容の真意が争われる可能性が高く、また、遺言書が公証人役場に保存されないため、 偽造、 変造、紛失、 滅失のおそれがあります。
 さらに、遺言書が発見されたときには検認手続が必要となります。」

 そして、

「費用をかけずに気軽に作ることができるのが自筆証書遺言、費用はかかるがプロが作る公正証書遺言。どちらも遺言として優劣はありません。さて、あなたはどちらで作りますか・・・・」

 と続くわけです。

 私に言わせれば、無責任極まりない手引書と言うしかありません。

  結論から言いますと、公正証書遺言がいいに決まっています

 自筆証書遺言の作り方とか、自筆証書遺言記載例などを示して読者を惑わす必要は全くないのです。

 ですから、当事務所では、全て公正証書遺言を作る前提で解説していますが、一応、ここで、公正証書遺言と自筆証書遺言のメリット・デメリットについて検証しておきましょう。

  自筆証書遺言はお金がかからないってホント?


 「自筆証書遺言の最大のメリットは費用がかからないこと」 とよく言われます。しかし、これは必ずしも正しくありません。

 自筆証書遺言の場合には、遺言書の保管者や遺言を発見した相続人は、相続の開始を知った後、 遅滞なく、自筆証書遺言を、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。
 検認の請求があると、家庭裁判所は、相続人全員に対して検認期日(検認を行う日)の通知をします。
 通知を受けた相続人が検認期日に出席するかどうかは各人の判断に任されており,全員がそろわなくても検認手続が行 われることになります。

 例えば、遺言者の最後の住所地が静岡であった場合、検認の請求は静岡家庭裁判所に行うことになります。
 検認の請求には、申立手数料(800円)のほか、若干の郵便切手が必要になります。
 また、相続人全員を特定す るための戸籍謄本等を添付することが必要となりますので、その実費だけでも数千円が必要となります。

 仮に、相続人が、東京、大阪などの遠隔地に居住している場合、原則として、検認期日(もちろん平日です)に静岡家庭裁判所に出頭する必要がありますので、その旅費も考えておかなければなりません。

 ところで、検認とは,相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日における遺言の内容を明確にして遺言の偽造・変造を防止するための手続であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません

 したがって、面倒な検認の手続きを経ても、遺言の有効・無効を巡る争いが起きないとも限りません。このよ うに、自筆証書遺言は作るのは簡単かもしれませんが、その後、いくつものハードルを超えなければならないのです。

 これに対し、公正証書遺言については検認の手続きは全く不要ですから、自筆証書遺言のような検認の手続きやこれに対する費用が発生することがないのです。
 
 「自筆証書遺言の最大のメリットは費用がかからないこと」というのは、遺言を作成する段階でのことを指しているにすぎないのです。

 一方、公正証書遺言を作成する場合は、①公証人手数料、② 戸籍謄本等の実費が必要となります。また、司法書士、弁護士、税理士、行政書士等の専門家に原案の作成や公証人への橋渡しを依頼するには、それぞれの報酬 が必要となります。  
 これらのうち、公証人手数料についてはやや複雑な計算とな りますが、遺言で指定する財産が少ない場合は5万円前後、財産が1億円前後で数人に分けて相続させる場合は10~20万円前後が必要となります。

 金額だけで比較すれば、トータルでは、確かに、公正証書遺言の方が多くの経費がかかるかもしれません。しかし、検認を経ても有効・無効が確定せず、場合によっては発見されることもない自筆証書遺言に対し、プロである公証人が作成することにより信頼性が極めて高く、公証役場で保管される公正証書遺言とを比較すれば、わずかな費用の差があったとしても公正証書遺言に 軍配が上がるのは当然です。

公正証書遺言と自筆証書遺言とでは優劣がある


 次に、「公正証書遺言と自筆証書遺言とでは、遺言としての優劣はない」ということが書かれている手引書もありますが、これも、一見正しいようで、実は間違っています  確かに、法律上の位置づけとしては、公正証書遺言と自筆証書遺言とでは、遺言としての優劣はありません。

 しかし、実際に、遺言者が死亡したことにより遺言を金融機関に持ち込んでみると、自筆証書遺言の場合、金融機関によっては、遺言が存在しているにもかかわらず、相続人全員の同意書(印鑑証明書付)を求め られることがあります

  これは、たとえ検認を受けた自筆証書遺言であっても、検認によって有効・無効が確定したわけではないため、無効である可能性を秘めた自筆証書遺言で預金の解約に応じるわけにはいかないという理由によるものです。

 ところで、遺言が有効であるのか無効であるのかが争われる ケースの多くは、遺言が遺言者本人の意思によって作成されたものであるのかどうかという点が問題とされています。

 例えば、高齢者が遺言を作成した場合に は、「遺言作成当時、遺言者は認知症により判断能力が低下していたのであるから、こんな複雑な内容の遺言を作成できる状態ではなかった筈だ」などという理由で、本人の意思に基づかずに作成されたものであるという争い方をするわけです。

 もっとも、このような争いが生じるのは遺言が効力を生じた後、つまり、遺言者が死亡した後ですから、遺言作成当時に本人にどの程度の判断能力があったのかは再現することが困難です。

 そこで、本人の意思にもとづいて作成されたものか否かを裁判所がどのような観点で見ているか考えてみますと、自筆証書遺言については識字能力、つまり、本人が書いた文字にどの程度誤字があるのか、意味が通る文章になっているのか、ということのようです。

 その点、公正証書遺言は公証人に遺言の趣旨を話して伝えるということが要件となっていますので、識字能力という観点とは異なるようです。

 それに加え、遺言の内容が、遺言者が当時話していたことや 当時の行動と合致するものであるか矛盾するものであるか、遺言作成当時、遺言の内容に影響を及ぼすような者がどのように関与していたか(例えば、遺言により大部分の財産を相続する者が同席している場所で作成されたような場合)、というような事情も判断材料のひとつになるようです。

 これらの点について、公正証書遺言は公証人の面前で遺言内容を公証人に話し、それを公証人が書面にして遺言者に読み聴かせ、しかも、証人2人以上が立ち会わなければならないのに対し、自筆証書遺言は密室でも作成することができることから、自筆証書遺言については公正証書遺言よりも信頼性が低いと考えている金融機関があるのです

 もちろん、こうした自筆証書遺言では解約に応じない金融機関の取扱いに対しては、訴訟を起こしてあくまでも解約を請求するという選択肢もないわけではありませんが、時間も費用もかかってしまいます。

自筆で作ったばかりに・・・


 そんなことが 予想されるのであれば、最初から公正証書遺言を作っておけばいいだけの話です。  このように、実際の取引社会においては、自筆証書遺言に比較して、公正証書遺言の信頼性の高さが厳然としているのです。

  さらに、公正証書遺言の場合には、公証人や公証人に橋渡しをする法律専門家のチェックやアドバイスが受けられるという点でも自筆証書遺言とは大きな違いが あります。

 たとえば、自宅の土地建物を所有していた遺言者が、自筆証書遺言で自宅の住所である「荒川区○○×丁目××番×号をAに遺贈する」という遺言をした事例で、「荒川区○○×丁目××番×号」というのは建物だけのこ となのか、土地建物両方のことなのかということが問題となりました。

 しかも、「荒川区○○×丁目××番×号」というのは自宅の所在場所を表す住居表示で あって、土地の登記簿上の所在・地番は「荒川区○○×丁目△△番△」、建物の登記簿上の所在・家屋番号「荒川区○○×丁目△△番地△ 家屋番号△△番△」 であったのです。

 この事例は、最高裁判所まで争われ、結局、自宅の土地及び建物を一体として遺贈したと考えるの相当であるという結論になりました(平成13年3月13日判決 判例時報1754号88頁参照)。

 しかし、この裁判は、最高裁の結論が出されるまで、実に7年の歳月を費やしたのです

 もしも、この事例で、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言が作成されていたならば、遺言書には、間違いなく、「荒川区○○×丁目△△番△の土地及び荒川区○○×丁目△△番地△ 家屋番号△△番△の建物を遺贈する」 と書かれて、このように7年も裁判で争うような必要は全くなかった筈です。

 なぜなら、公証人が関与している以上、遺言者の意思を正確に遺言書に反映するために、土地や建物を特定するためには、住居表示ではなく、登記簿上の表示を記載するのがイロハのイとされているからです。

 このほかにも、自筆証書遺言が発見された場合に、そこに記載された文章をどのように解釈すべきなのか非常に迷う場面があります

 たとえば、「○○に譲渡する」「○○にやる」「○○にくれる」「○○にもらって欲し い」などと書いてあった場合、「相続させる」という意味なのか、「遺贈する」という意味なのか、よくわかりません。

 また、「自宅の東側の土地」といった書き方がされていると、果たして、どの土地のことを言っているのか、「裏の山の林」などといった書き方は、林のある土地のことなのか林の木のことなのか、わかりません。

 公正証書遺言の場合には、公証人や、公証人に持ち込むまで の過程で法律専門家が関与してチェックしたり、アドバイスを行うため、何をどうするのかについて意味がわからないということはほとんどありません。

 以上のことから、公正証書遺言の方がいいに決まっているの です。様々な意味でリスクの高い自筆証書遺言を推薦したり、いずれかを読者の選択に任せるのは手引書として失格であるというしかありません。

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