作ることが目的ではない。何のために作るのかを考えよう

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  団塊の世代が高齢化しているご時世を反映しているのでしょうか、それとも、相続税増税の話題が影響しているのでしょうか、書店に行くと、遺言の作り方に関 するたくさんの手引書が並べられています。
 そして、パラパラと頁をめくってみますと、出だしは、おおかた次のような文章が書かれています。

「遺言は、民法という法律に定める方式に従って作る必要があ ります。遺言には、普通方式として、自筆証書、公正 証書、秘密証書の3種類があります。そして、自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。・・・」
 以下、遺言の作り方に関する法律の解説が延々と続きます。

 これを読み続けるうち、読者は、「費用対効果を考えてどの方式の遺言を選ぶべきか」「どうすれば法律上有効な「遺言」を作ることができるのか」というよう な、遺言の作り方自体に関心が集中していきます。

 そして、いつの間にか、遺言を作ること自体が目的となってしまっていることが多く見受けられます。

 もちろん、作った書類が法律上の要件を満たしていないために「遺言」として認められなければ意味がありませんし、それに費やした時間も全く無駄になってしまいます。したがって、遺言の作り方自体に関心を持つこと は悪いことではないでしょう。

 しかし、そもそも、遺言を作ろうと考えたきっかけは別のところにあったのではないでしょうか。「遺言の作り方自体を学ぼう」 ということではなかったのではないでしょうか。

願いを遺言に託す


   遺言を作る目的は人により様々でしょうが、私の経験から感 じているのは、どうやって財産をバラバラにせずに承継させるか、家業を特定の者に引き継いでもらうために遺産分けをどのように指定するか、家族融和の願 い、家族に対する感謝の気持ちを伝えたい、ということが中心のようです。

 現実に、家業の相続争いで会社や家族が分裂して事業閉鎖に追い込まれたり、平等な配分にこだわるあまり、自宅を売却して現金でわけるという愚かなことが数多く行われているのです。

 もちろん、葬儀の方法とか団体への寄付の申し入れ、献体の希望などもないわけではありません。しかし、大半の場合は、自分の財産や事業をどのように承継 してもらいたいか、遺言どおり承継させたのでは相続人間でアンバランスな配分となるけどもみんなで協力して仲良く暮らして欲しい、といった願いを、遺される家族に伝えたいということが目的であり、遺言は、それを実現するための有力な手段であるにすぎません。

 ところが、手段であったにもかかわらず、いつの間にか、遺言を作ること自体が目的となってしまっている手引書が実に多く、読者も本当の目的を見失っているのです。

 割り切って言ってしまえば、あなたの気持ちを実現する手段 としての遺言の作り方のうち、法律的な注意点はあなたが考える必要はありません。公証人が作成する公正証書遺言を利用すれば、遺言作成のプロである公証人や、公証人に導いてくれる司法書士などの法律専門家が問題なく対応してくれる筈です。

 しかし、あなたが遺言を作ろうと思ったきっかけや目的は、公証人や他 の専門家が考えることではありません。あなた自身が、遺言を作る目的を明確にして、公証人や関係する法律専門家に伝えていく必要があるのです。

想いを伝える遺言を作りましょう


   例えば、妻と子供3人がいらっしゃる山田五郎さんが、自分が築いた飲食店を、いっしょに仕事をしてくれている長男にすべて引き継いで欲しいという目的で遺言を作ろうと考えたとします。
 家業を継いで欲しいというこ とは、飲食店の権利を引き継がせるということになりますので、引き継がせる財産としては、不動産の所有権である場合や賃借権である場合もあるでしょう。会社組織になっているのであれば株式として引き継ぐことになるでしょう。
 そして、書店で遺言の作り方に関する手引書を購入し、次のような遺言を作ったとします。

     遺 言 書
 財産のすべてを長男Aに相続させる。
 
 平成○年○月○日
          山田五郎 印

 仮に、この遺言が種々の遺言作成に関する要件を満たしていて、法律上も「遺言」としての効力が認められるとした場合、山田五郎さんの目的はこの遺言で達 せられるでしょうか。

 私は、山田五郎さんの目的は全く達せられていないと考えます。なぜなのかわかりますか?

 確かに「財産のすべて」を長男に相続させるということが書かれていますから、不動産の権利であったり、株式であったり、預貯金であったり、はたまた、飲食店で使用している調理器具や什器など、とにかくすべてにつ いては長男が相続するように、ということはわかります。

 しかし、山田五郎さんは、もともと、「自分が築いた飲食店 を、いっしょに仕事をしてくれている長男にすべて引き継いで欲しい」という目的があり、だからこそ、財産のすべてを長男に相続させたいと考えたのでしたね。

 この遺言を山田五郎さん以外の方が見たとき、果たして、何 人の方が山田五郎さんの気持ちを理解するでしょうか

 むしろ、他の子供たちから、「どうして兄さんだけ財産を独り占めにして、俺達の貰い分がないんだ」とか、「父さんは、一体俺達のことをどう考えていたんだ」、「兄さんがこの遺言を書かせたんじゃないのか」、「遺留分という権利がある筈だからこの遺言は認められない」など、この遺言が発見されたことを契機として相続争いに発展してしまうことも考えられます。

 このように、遺言を作る際に、本来の目的を忘れ、法律的に 有効な遺言を作ることに関心が集中してしまうばかりに、かえって本来の目的の実現が困難になってしまうこともあるのです。

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