銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!

 十数年前に「登記情報」という雑誌にコラムとして書いたことあるが、同じ問題がまた生じている。検認を受けた自筆証書遺言。全文、日付、氏名が自筆で書かれ、押印もされており、法律上の要件は全て満たしている。遺言の内容も一義的に解釈され、疑義を挟む余地はない。既に、この遺言を使って複数の銀行預金を解約し、不動産登記も済ませている。ところが、ある銀行だけ、被相続人である遺言者の預金の解約に応じない。

「持ち込まれた自筆証書遺言以外に遺言が存在している可能性もあるため、相続人全員の承諾書を提出して欲しい」とのこと。これは、自筆証書遺言だからということであり、公正証書遺言であれば相続人全員の承諾書は徴求しないそうだ。

「いやいや、公正証書遺言だって何回も作れますよ。それに、昨今は公正証書遺言の無効となる判決だって珍しくありませんし、公正証書遺言なら絶対ということもないんです。公正証書遺言も自筆証書遺言も法律上の優劣はありません。相続人全員の承諾書を提出しろというのであれば遺産分割協議書を持ってこいというのと同じです。遺言制度を否定するに等しいですよ」
 そう言っても全く聞き入れない。

「昨今、相続を巡って紛争になるケースをよく見ますが、中には、ちょっとした行き違いとか言葉尻の問題で修復不可能な関係になってしまうこともあります。私はこの遺言で全く問題ないと思いますから、他の相続人の承諾は不要と考えます。必要もないのに他の相続人に実印を押させ、印鑑証明書を用意しろと言うのですか。それが原因で紛争になる可能性だってあるんですよ。ですから、銀行が自らのリスクを回避するために顧客に加重な負担を強いることはいかがなものかと思います。それに、本件の相続人は、亡き夫の預金を相続された奥さんと夫の兄弟達です。兄弟には遺留分はありません。奥さんは、これからもだんなさんの兄弟たちと親戚としてつきあっていかなければならないのです。それでも承諾書を出せと言うのでしょうか」

 担当部署に正面から掛け合っても同じ回答が繰り返されるだけだった。そこで、いろいろな人脈を使って担当部署に働きかけをしてもらった。

 あれから1カ月。ようやく担当部署から電話があった。

「大変失礼しました。実は、まだお伝えしていない方法がありました」

「ほう、どんな方法でしょう。可能な方法であれば検討させていただきますよ」
 多少のことを協力するのは吝かではない。銀行にも様々な規定があるのだろう。多少の協力で事がスムーズに進むのならそれに超したことはない。

「それで、どんな方法ですか」

「ええ、銀行から、相続人全員に異議があるかないか、照会させてもらいます」

 ・・・・・・

 もう勘弁して欲しい。顧客の相続問題に土足で踏み込むつもりなのか! 銀行のリスクを回避するために顧客はどうなってもいいのか。夫を失って生活費に事欠く相続人だったらどうしてくれるんだ。銀行にとっては小さなことかもしれないが、顧客にとっては大変な問題なんだ!

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